1960年代にテープマシンが本格的にスタジオに導入されて以来、オーバーダビングは音楽制作の定番となり、とくにボーカルでは欠かせない手法として使われてきました。
マルチトラックのテープマシンは、すでに録音された素材の上に録音を重ねられるという画期的な機能を持っていたため、アーティストはバンドがスタジオを出た後でも、ボーカルパートを好きなだけ重ねられることに気づいたのです。

現代では、コンピュータベースのDAWによってオーバーダビングはさらに簡単になり、規模の大小に関わらず、ほぼすべてのリリースで当たり前のように使われています。
ストリーミングやラジオで聴ける曲のほとんどは、すでに完成したインストゥルメンタルの上にボーカルを重ねて制作されていると言っていいでしょう。

もちろん、オーバーダビングには新たな課題もあります。とくに重要なのは、タイミングをしっかり揃え、複数のテイクをひとつのパフォーマンスとして感じられるように調整することです。
もしボーカルスタックをプロのように仕上げるのが難しかった経験があるなら、このガイドがその答えになります。

オーバーダビングとは？

オーバーダビングとは、既存のトラックの上に新しいパート（ボーカルや楽器）を録音するプロセスのことです。曲を“レイヤーごとに作り上げる”技術と言えます。

ボーカルセッションであれば、同じラインを何度も歌ってダブルを重ねたり、リードにハーモニーを足したり、キャラクターを加えるアドリブ（アドリブ）を録音することも含まれます。

Ableton、Logic、Pro Tools、Reaper などのDAWを使えば、今ではオーバーダビングは非常に簡単に行えます。
さらに、VocAlign や Revoice Pro のようなアライメントツールを使えば、複数のテイクを自然で洗練された形に素早く揃えることができます。

SNSにも現代的な“オーバーダブ”があります。それが TikTok のデュエット機能です。
誰かの動画の上に歌を重ねるスタイルは、まさに現代版のカラオケ風オーバーダブと言えます。

ボーカル（やそれ以外）に使えるオーバーダブの作り方

オーバーダビングを使った制作は、複雑なプロダクションをスムーズにするための基本スキルです。
ここからは、より良いオーバーダブを作るための実践的なヒントを紹介します。

① しっかりしたインストゥルメンタルから始める

オーバーダブを始める前に、歌いやすいインストが必要です。
アレンジがまとまり、リズムやコード感が安定していれば、ボーカリストは曲の感情にも入りやすくなります。

中途半端なビートの上に録音しても、納得のいくテイクを録るのは難しくなります。
完璧なミックスである必要はありませんが、歌手が“ロックインできる状態”にはしておきましょう。

② とにかくたくさん録る

オーバーダビングでは「量＝選択肢」です。1〜2テイクで止めず、何度も録音しましょう。

複数のテイクがあれば編集の幅が広がり、微妙なタイミングや声色の違いを重ねて、より大きなサウンドを作ることができます。
プロの現場では、コーラスだけで6回、10回録り直すことも普通です。

後からベストテイクを選んでレイヤーすれば、完成度の高いスタックを作れます。

③ 必要な部分だけ“パンチイン”する

パンチインとは、録り直す必要がある部分だけを狙って録音する方法です。
1960年代のテープ時代には、エンジニアが“狙ったポイントでテープヘッドを押し込む（punch in）”ことで重ね録りをしていました。

たとえば、ヴァースが完璧でもコーラス1行だけミスした場合、パンチインでその部分だけをすぐ録り直せます。
これにより時間を節約でき、パフォーマンスの流れも壊れません。

DAWならプリロールを設定して録音を開始するだけ。とてもシンプルです。

④ 想像できる限りのレイヤーを追加する

オーバーダブは創造力が試される場面です。メインが完成したら、ダブル・ハーモニー・囁き声・低音・高音・アドリブ…など、自由に重ねてみましょう。

コーラスにダブルを重ねれば一気に存在感が増します。
低いオクターブやウィスパーを加えると質感が出ます。
ハーモニーを加えれば、曲のムード自体をチェンジすることもできます。

ジャンルによっては、数十ものレイヤーを使ってプロのようなスタックを作ることも珍しくありません。

⑤ ベストテイクを“コンピング”する

コンピングとは、複数のテイクから“最高の部分だけを選び出して繋ぐ”編集方法です。

たとえば、テイク1の入りが良くて、テイク4の高音が完璧なら、そのいい部分だけを繋いで理想的なテイクを作れます。

どのDAWにも「コンピング機能」が備わっています。
組み上がったコンプテイクは、そのまま“完成用のリードボーカル”として使えるパフォーマンスになります。

⑥ DAWやプラグインでタイミングを揃える

最後の仕上げはアライメントです。
良いテイクでも、タイミングがズレていると全体がバラバラに聴こえてしまいます。

DAWで細かく調整する方法もありますが、VocAlign や Revoice Pro のようなアライメントツールなら自動で一瞬です。

複数のテイクが“ひとつのボーカルに聴こえる”ためには、このステップが非常に重要です。

Overdub it

オーバーダビングは、ただの録音テクニックではありません。
現代の音楽制作を支える基盤そのものです。

The Beatles がテープマシンで実験した時代から、DAWで巨大なスタックを作る現代のプロデューサーまで、
“フルで、エキサイティングで、プロのクオリティに仕上げる”ための核となる技術です。

しっかりしたインスト、たくさんのテイク、創造的なレイヤリング、賢いコンピング、そして VocAlign や Revoice Pro などのアライメントツール。
この5つが揃えば、あなたのボーカルはストリーミングのプレイリストにも並べられるレベルに到達できます。

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